SNSが消費者の主要な情報収集手段になった今、企業のマーケティング予算もSNS上での施策に向かっています。その中でも、フォロワーとの信頼関係を持つインフルエンサーを活用した施策は、多くの企業が注目する選択肢のひとつです。
ただ、注目度が高まるにつれ、「投じた費用に見合う成果が出ているのか」を問われる場面も増えています。実際に、PLAN-Bの調査では、インフルエンサーマーケティングに取り組む担当者の約40%が、効果測定の難しさを課題として挙げています。
そこで本記事では、インフルエンサーマーケティングのROI(費用対効果)の考え方、具体的な計算方法、効果を左右する要因を解説します。費用対効果を数字で示したい企業の担当者はぜひ参考にしてください。

インフルエンサーマーケティングのROIとは?
インフルエンサーマーケティングのROIとは、SNS上で影響力を持つクリエイターを活用したマーケティング施策について、コストに対してどれだけの成果を得られたかを示す指標です。数値が高いほど、その投資は効率的であると見なされます。
ROIとROASの違い
ROIとROAS(広告費用対効果)は、計算に含める範囲が異なります。ROASは広告費に対してどれだけの売り上げが得られたかを表します。一方、ROIは広告費だけでなく、キャンペーンにかかるすべてのコストに対する利益を表します。

インフルエンサーマーケティングが投資に値する理由
インフルエンサーマーケティングは、他の施策と比べて費用対効果が高いとされています。企業が用意した台本をタレントが読み上げる従来型のタレント起用施策と比べると、インフルエンサーはブランドの方針を踏まえたうえで、自身の発信スタイルに合わせたコンテンツを作るため、広告感が少なく、より自然に受け止めてもらいやすいです。インフルエンサーのフォロワーには、信頼している人のおすすめとして好意的に受け入れてもらえます。
また、特定の層に支持されているインフルエンサーを起用し、その層に合った商品やサービスを紹介してもらうことで、興味を持ちにくいユーザーへの無駄な露出を減らし、広告費を効率よく使えます。たとえば、地域に根ざしたビジネスであれば、その地域に特化したインフルエンサーをマーケティングに起用することが考えられます。
その効果は国内の市場動向にも表れています。サイバー・バズの調査によると、2024年の国内インフルエンサーマーケティング市場は860億円(前年比116%)に達し、2029年には約1.9倍の1,645億円への拡大が見込まれています。企業が継続的に予算を投じている事実そのものが、費用対効果の高さを示していると言えます。
ただし、インフルエンサーマーケティングのROIは売り上げだけで判断できず、数字に表れにくい成果も含めて評価する必要があります。そのため、キャンペーンを始める前に「何をもって成功とするか」を明確にしておく必要があります。

インフルエンサーマーケティングROIの算出方法
1. 目標とKPIを設定する
インフルエンサーマーケティングのROIを把握するには、キャンペーンの目的に合ったKPI(重要業績評価指標)を設定しておくことが必要です。売り上げだけでROIを評価することは難しく、目標によって測るべき指標が異なるからです。
目標に応じて、主に以下の様な計測指標があります。
- ブランド認知向上:インプレッション数、リーチ数、メンション数
- リード獲得:新規サイト登録者数、ニュースレター購読者数、フォーム送信数
- 売上アップ:コンバージョン数、売上高、アフィリエイトコードの利用数
目標とKPIが明確であれば、キャンペーン終了後に「何がどれだけ達成できたか」を具体的に評価できます。
2. 総投資額を把握する
キャンペーンにかかるコストをすべて洗い出します。以下のような項目を集計しましょう。
- インフルエンサーへの報酬
- 商品の無償提供にかかるコスト
- インフルエンサーマーケティング会社への手数料
- コンテンツ制作費
- 効果測定ツールの利用料
- 関連イベントの費用
- 交通費
投稿にかかる直接費用だけでなく、関連イベントや自社サイトの更新、SNS運用などの付随コストも含めて算出することが重要です。
3. リターンを計測する
インフルエンサーマーケティングで得られたリターンを計測します。リターンには、コンバージョンやアフィリエイト成果などの金銭的なものと、SNSのエンゲージメント数や獲得リード数などの非金銭的なものがあります。
金銭的なリターンは、インフルエンサーごとに専用のプロモコードやアフィリエイトリンクを発行しておくことで、キャンペーン経由の売り上げを追跡できます。たとえば、Shopify(ショッピファイ)アプリのAffitch(アフィッチ)を使えば、自社ECサイトへアフィリエイト機能を簡単に導入できます。
非金銭的なリターンは、売り上げのように直接数字が出るわけではないため、単価を割り出して金額換算する方法が有効です。たとえば、Instagram(インスタグラム)のインプレッション数をリターンとして評価する場合、インスタ広告の平均インプレッション単価(CPM)を参考に金額換算できます。同様に、インフルエンサーが制作したコンテンツを広告やメールに二次利用できる場合は、同等のコンテンツを自社制作した場合との差額を成果として計上できます。
4. ROIを計算する
算出した投資額とリターンをもとに、以下の計算式でROIを求めます。
ROI =(リターン - 投資額)÷ 投資額 × 100
たとえば、インフルエンサーへの報酬や商品提供などに100万円を投じ、200万円相当のリターンが得られた場合は以下の通りです。
ROI =(200万円 - 100万円)÷ 100万円 × 100 = 100(%)
この場合、投じたコストと同額のリターンが得られたことになります。
なお、ROIの数値はキャンペーンの目的やジャンルによって大きく異なります。たとえば、コスメや化粧品のようにインフルエンサーとの親和性が高い業種と、B2B(企業間取引)サービスのような業種では、同じ投資額でも得られる成果が大きく異なります。そのため、単純な数字の比較よりも、自社の過去実績や同業他社の水準を基準に評価することが重要です。
インフルエンサーマーケティングROIを計測する主要指標
- コンバージョン数:インフルエンサーキャンペーン経由で発生した購買、クーポン利用、ダウンロードなどの件数です。売り上げへの直接的な貢献を示す、最も基本的な指標です。
- リード獲得数やメール購読者数:キャンペーンをきっかけに新たに獲得した見込み顧客の数です。即座に売り上げにはならなくとも、長期的に収益化される可能性があります。
- リーチ数やインプレッション数:リーチ数はコンテンツを見たユーザーの人数、インプレッション数はコンテンツが表示された回数です。ブランド認知の拡大を目的としたキャンペーンでは、主要なKPIになります。
- SNSエンゲージメント数:いいね、コメント、シェア、保存、フォローなどのアクションがどれだけ発生したかを示す指標です。ターゲットがコンテンツにどれだけ深く関わったかを表します。
- 動画視聴データ:動画コンテンツの再生回数に加え、平均視聴時間や視聴維持率を合わせて確認することで、ユーザーがコンテンツにどれだけ引き込まれたかを把握できます。
- サイト遷移数:投稿に含まれるURLをクリックした後、実際に自社サイトへ到達したユーザー数です。
- 指名検索数:キャンペーン期間中に企業名やブランド名が検索エンジンで直接検索された回数です。
- UGC(ユーザー生成コンテンツ)投稿数:インフルエンサーの投稿に触発されたユーザーが自発的に投稿したコンテンツの数です。
- インフルエンサー生成コンテンツ(IGC)の価値:インフルエンサーが制作した写真や動画そのものが持つ資産価値です。キャンペーン終了後も広告やランディングページ(LP)などに二次利用できます。
インフルエンサーマーケティングのROIの目安
インフルエンサーマーケティングのROIは、100%~600%が目安とされます。Shirofune(シロフネ)の2025年のレポートでは、広告ROIの場合200%以上が良好なパフォーマンスと位置づけていますが、あくまで参考値で、インフルエンサーマーケティングのROIはキャンペーンの業種や目的によっても大きく異なります。
米国の金融データサービスCSIMarket(CSIマーケット)による2026年第1四半期のセクター別平均資本ROIレポート(英語)を見ると、ROIは業界間の差が大きいことが分かります。これは企業の資本全体のROIであり広告ROIとは異なりますが、業界ごとの水準を把握するうえで参考になります。以下は、同調査データの一部です。
- テクノロジー:23.31%
- 小売:14.73%
- ヘルスケア:6.55%
- 交通:6.63%
- サービス:6.60%
テクノロジー業界のROIは、サービスや交通と比べて約3倍の水準にあります。自社のインフルエンサーマーケティングのROIを評価する際も、業界によって水準が大きく異なることを念頭に置いておきましょう。

インフルエンサーマーケティングのROIに影響する主な要因
インフルエンサーの規模
インフルエンサーはフォロワー数によって以下のように分類されます。
- ナノインフルエンサー:約1,000〜10,000人
- マイクロインフルエンサー:約10,000〜100,000人
- マクロインフルエンサー:約100,000人〜100万人以上
フォロワー数が多いほどROIが高くなるわけではなく、規模ごとに異なる特徴があります。たとえば、ナノインフルエンサーは、フォロワーを伸ばしている成長途上のクリエイターと、規模の小さいジャンルに特化してニッチな層から強い支持を得ているクリエイターの2つに大別されます。後者の場合、そのジャンルに関連する商品のマーケティングに活用すると、ターゲット精度が高まり、高いROIが期待できます。
一方、マクロインフルエンサーは、料理やフィットネスなど規模の大きい専門ジャンルで影響力を持つタイプと、エンタメ系コンテンツで幅広い層から支持を得るタイプに分けられます。前者は専門ジャンルに関連する商品との親和性が高く、後者はインプレッション数の最大化をKPIとするキャンペーンに適しています。
プラットフォーム
インフルエンサーマーケティングで利用される主なプラットフォームと特徴は以下の通りです。
- TikTok(ティックトック):短尺動画に特化していて、若年層への拡散力が高く、バズによる認知拡大が強みです。TikTokの公式発表によると、2025年11月時点で、月間アクティブユーザー数は4,200万人以上です。
- Instagram:画像、ストーリーズ、リールなど複数のフォーマットに対応していて、ライフスタイル、美容、ファッションとの親和性が高いです。Cominco(コムニコ)の調査では、2023年11月時点で、月間アクティブアカウント数は6,600万人以上であると推測されています。
- YouTube(ユーチューブ):長尺動画、ショート、ライブ配信などで幅広い年代にリーチでき、長尺動画では他のプラットフォームでは伝えきれない詳細な情報を届けられます。Googleの公式発表によると、日本の18歳以上のYouTubeユーザー数は2024年5月の時点で7,370万人です。
- X(エックス):テキスト投稿が主体で、リアルタイム性と拡散力が強みです。X日本法人代表の発言によると、日本におけるXのマンスリーアクティブユーザー数は6,800万人、デイリーアクティブユーザーは4,000万人に達しています。
プラットフォームごとにユーザー規模や年齢層が異なるため、同じ予算でも得られるリーチ数やエンゲージメント数が大きく変わります。
コンテンツ形式
長尺動画と比べて制作コストが低く、テキストや静止画よりも商品の魅力を視覚的・直感的に伝えられる縦型ショート動画の需要が急拡大しています。
ターゲットの年齢層や利用されているデバイス、商品やサービスのジャンルなどによってROIを最大化するコンテンツは異なりますが、縦型ショート動画は、多くの人が日常的に使うスマートフォンとの相性も良いため、投じたコストに対して得られるリーチやエンゲージメントが大きくなりやすいという特徴があります。
サイバーエージェントの調査によると、2024年の国内動画広告市場は7,249億円(前年比115.9%)に達していますが、中でも縦型動画広告は2023年の526億円から2024年の900億円へと前年比171%の成長を遂げており、他の広告形式と比べて突出した伸びを示しています。また、サイバー・バズの調査によると、国内インフルエンサーマーケティングにおける縦型ショート動画の市場規模は2024年に246億円(前年比137%)に達しており、2029年には約2.6倍の636億円に拡大すると予測されています。
ライブ配信を活用したライブコマースも注目されています。NTTコムリサーチの2023年の調査によると、ライブコマースの認知率は約3割にとどまるものの、視聴者の54.8%が実際に商品を購入しており、成約率の高さが特徴です。
商品の価格帯
商品の価格帯や購買意思決定のプロセスが異なれば、ROIの水準や回収までの期間も大きく変わります。コスメやアクセサリーなど、購入しやすい価格の商品は、インフルエンサーのショート動画を見た視聴者がそのまま購入に至りやすく、コンバージョンまでの経路が短いのが特徴です。見て、欲しくなって、すぐ買うという流れが成立しやすいため、ROIが高くなりやすい傾向があります。
一方、家具やマットレスなどの高額商品は、購入までに時間をかけて検討するユーザーが多く、ひとつのコンテンツだけで購買意思決定に至るケースは少ないです。商品の詳細や使用感を丁寧に伝えたり、継続的にブランドを発信するアンバサダー契約を結んだりすることで、信頼形成と購買促進につながりやすくなります。また、このような商品では、キャンペーン終了後も売り上げへの貢献が続く中長期的な視点でROIを評価することが適切です。
自社商品の価格帯と購買プロセスに合ったコンテンツ形式・インフルエンサー起用方法を選ぶことが重要です。
インフルエンサーマーケティングのROI測定に役立つツール
1. Googleアナリティクス
Googleアナリティクス4(GA4)は無料のウェブ解析ツールです。インフルエンサーの投稿にUTMパラメータ付きのURLを設定することで、どのインフルエンサー経由で何人が自社サイトを訪問し、どれだけコンバージョンに至ったかを計測できます。
2. Googleサーチコンソール
Googleサーチコンソール(Google Search Console)は無料のキーワード調査ツールです。キャンペーン期間中の指名検索数の変化を分析することで、インフルエンサー施策がブランド認知に与えた効果を測れます。
3. Social Insight
Social Insight(ソーシャルインサイト)は企業向けのSNS管理ツールで、X、Instagram、TikTokなど複数のSNSデータを一元管理できます。フォロワーの属性、投稿ごとのパフォーマンス、競合アカウントとの比較など、インフルエンサーマーケティングの成果測定に必要なデータを幅広く可視化できます。
4. Shopify Collabs
Shopify Collabs(英語)はShopifyが提供する商品プロモーションアプリです。アプリ上で自社商品を紹介してくれるインフルエンサーを募集し、ディスカウントコードの提供やアフィリエイト経由の売り上げ追跡などを行えます。Shopifyストアと連携しているため、インフルエンサー経由のコンバージョンを管理画面上で手軽に把握できます。
5. Cast Me!
Cast Me!(キャストミー)はインフルエンサーマーケティングプラットフォームです。登録インフルエンサーの実績データ検索、マッチング、投稿成果のレポートなどの機能を備えていて、施策を一元管理できます。
まとめ
インフルエンサーマーケティングのROIは、施策の成果を測るために必要な指標です。売り上げだけではなく、ブランド認知や検索流入の増加などを数値化して組み合わせることで、より正確に計測できます。
継続的に施策を展開し、ROIの測定と改善を繰り返すことで、自社ブランドにあったインフルエンサー、プラットフォーム、投稿コンテンツのスタイルなどを特定できます。ROIを意識しながらインフルエンサーマーケティングを行い、短期的な売り上げ施策としてだけでなく中長期的に大きなリターンを得られる施策へと育てましょう。
インフルエンサーマーケティングのROIに関するよくある質問
インフルエンサーマーケティングのROIとは?
インフルエンサーマーケティングのROIとは、インフルエンサーを活用したマーケティング施策について、費用に対する成果を示す指標です。
ROIとROASの違いは?
ROASは広告費に対する売上高の比率を示すのに対し、ROIはインフルエンサーへの報酬や制作費など、キャンペーン全体のコストに対する利益の比率を示します。
インフルエンサーマーケティングのROIはなぜ重要?
ROIを把握することで、どの施策が成果につながっているかを客観的に評価でき、予算配分の最適化や次回施策の改善に活かせます。
インフルエンサーマーケティングのROIはどう計算する?
ROIは以下の計算式で求められます。
ROI =(リターン - 投資額)÷ 投資額 × 100
売り上げ以外のKPIも、広告単価などを参考に金額換算してリターンに含めることで、より包括的なROIを測定できます。
インフルエンサーマーケティングのROIの目安は?
インフルエンサーマーケティングのROIは、100%~600%が目安とされます。ただし、業界ごとにROIの水準は大きく異なるため、自社の過去実績や同業他社の水準を基準に評価しましょう。
インフルエンサーマーケティングのROIに影響を与える要因は?
インフルエンサーマーケティングのROIに影響する主な要因は以下の通りです。
- インフルエンサーの規模
- プラットフォーム
- コンテンツ形式
- 商品の価格帯




