「AIが商品を探し、比較し、購入まで完結させる」——これは遠い未来の話ではありません。リテールテックJAPAN 2025の基調講演に登壇したShopify Japan 馬場道生は、こう言い切りました。「エージェンティック・コマースは、北米ではすでに現実です。」では、日本のEC事業者にとって「今」は何を意味するのか。
AIはすでに、消費者の買い物を変え始めている
変化はすでに数字に表れています。Shopify加盟店へのAI検索経由のアクセスは、前年比で9倍以上に増加。注文数にいたっては15倍以上です。さらにAI経由での購買は、従来チャネルと比べて平均注文額が30%高く、新規顧客の獲得件数も2倍以上という結果が出ています。
日本も例外ではありません。昨年のShopifyによる調査では、日本の消費者の51%以上がショッピングにAIを活用すると回答しており、AIを介した購買行動は確実に浸透しつつあります。
購買の入口が、静かに変わっている
こうした変化の背景には、検索そのものの構造転換があります。Googleの検索セッションの60%以上がすでに「ゼロクリック」になっています。AIが検索画面の中で回答を完結させるため、ユーザーはサイトを訪れる前に答えを得てしまいます。「検索してブランドのサイトを訪れて、商品を見つける」という前提が、静かに崩れています。
そしてその先にあるのが、「エージェンティック・コマース」です。AIエージェントが消費者の代わりに情報を収集し、比較して、購入・決済まで自律的に完結させる購買形態です。McKinseyは2030年までにこの市場が世界で750兆円規模に達すると予測しており、Bain & Companyは米国EC売上の約25%をAI経由が占めるようになると推定しています。
これは消費者にとって、買い物体験が根本から変わることを意味します。そして事業者にとっては、「どこで、どのように発見されるか」という競争軸が変わることを意味します。
AIに「発見・推薦される」ために必要なこと
この変化の中で事業者が問い直すべきは、「AIにどう見つけてもらうか」です。馬場はその答えを3つの視点で整理しました。
商品データを、AIが読める形に整える
在庫、価格、バリアント、商品説明——これらの情報がAIの読み取れる形式でリアルタイムに整備されていることが、まず出発点になります。情報が整っていない商品は、AIにとって"存在しない"のと同じです。AIは読み取れないデータを推薦しません。
「文脈」を豊かにする
AIは単なるスペックではなく、「誰のための商品か」「どんな場面で使うか」「なぜこのブランドなのか」という文脈を読みます。スペックだけで語られる商品は、AIの推薦リストから弾かれていきます。季節性、利用シーン、ブランドの世界観——こうした意味のレイヤーを丁寧に言語化することが、AI時代の差別化につながります。
信頼と顧客エンゲージメントを積み上げる
専門的なコンテンツ、顧客レビュー、コミュニティの形成——顧客との継続的な関係性を積み重ねた企業は、AIからも「信頼できる事業者」として評価されます。テクノロジーが変わっても、信頼やブランド体験が購買の最終的な決め手になるという本質は変わりません。
エージェンティックコマースは北米で、すでに現実になっている
ShopifyはOpenAIと連携し、ChatGPTの画面上でそのまま商品を購入できる仕組みをアウトドアウェアブランドのVuoriやビューティブランドのGlossierなどのブランドで実現しています。また、GoogleとはUCP(Universal Commerce Protocol)を共同開発しています。AIエージェントがあらゆるマーチャントとスムーズに接続・取引できるようにするオープンスタンダードで、Walmart、Target、Etsyなどの大手企業も参加するエコシステムが広がっています。

ChatGPT、Microsoft Copilot、Google Gemini——主要AIプラットフォームとの接続を一元的に担うインフラとして機能することで、Shopifyはエージェンティック・コマース時代の基盤を提供しています。また新たに北米で先行的に発表された「Agenticプラン」により、Shopify以外のプラットフォームを利用している事業者でも、ShopifyのインフラをAIチャネル販売に活用できるようになります。
このエージェンティックコマースが日本市場に本格展開されるとき、準備ができている企業とそうでない企業の間には、大きな差が開きます。
日本企業にとって、これが「今」の問題である理由
グローバルで変化が加速する中、日本市場には固有の文脈があります。国内では中小から大手まで企業の50%以上がレガシーシステムに依存しており、またモール経由の販売に売上の多くを頼っている企業も少なくありません。
この構造のもとでは、顧客データが自社に蓄積されにくく、商品情報の構造化も進みにくい。AIエージェントに理解され、推薦されるための条件が、整いにくい環境にあります。だからこそ馬場は「これは重要な経営課題だ」と述べました。準備のできていない企業は、AI時代において"見えない"存在になります。変化を先取りして基盤を整えた企業が、AIが消費者行動を本格的に変えたとき、選ばれる側にいます。
事業者の日常業務も、AIが変える
エージェンティック・コマースが「消費者側のAI」だとすれば、Shopifyは「事業者側のAI」も提供しています。
管理画面に常駐するAIアシスタント「Sidekick」によるデータ分析・施策立案の自動化、AIが仮想顧客としてストアを回遊して購買体験の課題を可視化する「SimGym」——こうしたツール群により、少人数でも高い生産性を実現する運営体制が整います。Shopifyが提供するAIの全体像については、個別にご紹介しています。
重要なのは発想の転換です。既存業務にAIを後付けするのではなく、AI前提でプロセスを設計し直すこと。この考え方が、次のコマースで差をつける組織の土台になります。
安定と革新を両立する基盤として
「堅牢性なしには革新はありえない」——馬場はそう述べました。変化のスピードが速い時代だからこそ、基盤となる信頼性が重要になります。
Shopifyは革新と安定の両立を実績で示しています。昨年のブラックフライデー期間中、8,000万人のユニーク購買者が生み出す2.3兆円の流通をダウンタイムなしで処理しました。世界基準のセキュリティ(PCI DSS Level 1、SOC 2 Type II、ISO 27001)と高い可用性を維持しています。
革新のスピードと基盤の安定性を両立すること——それが、Shopifyが大手企業から新興ブランドまで幅広く選ばれる理由のひとつです。そして何より、Shopifyは企業の「売る力」を安全に飛躍的に高めます。
変化は、今この瞬間にも進んでいる
エージェンティック・コマースは、まだ輪郭がはっきり見えない概念かもしれません。しかし、購買の入口がすでに変わり始めていることは数字が示しています。
AIに理解され、推薦される事業者になるための条件は、AIツールの導入よりも前にあります。データ、文脈、信頼——この3つを今から積み上げ始めた企業が、次のコマースの競争で優位に立てます。
「ECサイト完結モデル」の終焉——その先に何があるか。
3月17日(火)、『世界最先端のマーケティング』著者・奥谷孝司氏とShopifyによる対談ウェビナーを開催します。エージェンティックコマースの本質、従来モデルが迎える構造的変化、そしてレガシー資産をどう再評価するか。中長期の戦略立案や、既存プラットフォームの見直しを検討されている経営層の方にとって、具体的な示唆を持ち帰っていただける内容です。
すでに変化に取り組んでいる企業の事例は、こちらからご覧いただけます。





