マーケターとしての目標は、顧客獲得コストを抑えながら、ブランド認知度と売上を向上させることです。D2Cマーケティングは、それを実現する有効な手法の一つです。
大手小売業者との提携にもメリットはありますが、D2Cブランドが自社でマーケティングチャネルを保有することで得られる利点は数多くあります。
- 商品のブランディング、ポジショニング、マーケティング、流通チャネルをより細かくコントロールできる
- 顧客のファーストパーティデータを取得し、購入者をより深く理解できる
- 新商品をより低価格で、より迅速に市場投入できる
- 小売業者に割引価格で販売する必要がないため、より高い利益率を確保できる
D2Cブランドは、マーケティング活動においてより積極的です。ウォルマートのような大手小売業者が持つ既存の顧客基盤を活用できないため、インフルエンサーマーケティングやSMSマーケティング、コミュニティ運営、メール配信など、さまざまな戦略を駆使して自社をプロモーションしています。
この分野に参入する準備はできていますか?本ガイドでは、成功するD2Cマーケティング戦略の構築方法を、具体的なアイデアや事例とともにご紹介します。
D2C(消費者直接販売)マーケティングとは?
D2C(消費者直接販売)マーケティングとは、小売業者を介さずに消費者へ直接商品をプロモーションするための戦術を指します。たとえば、Everlaneのようなブランドは、ウォルマートやAmazonなどのプラットフォームと連携して商品を販売することもできますが、そうする代わりに潜在顧客に直接商品を訴求し、中間業者を排除しています。
D2Cマーケティングのメリット
ブランディングのコントロール強化
市場において、自社の商品やブランドがどのように表現されるかをコントロールしたいと考えるのは自然なことです。D2C商品のマーケティングは、価値提案、ブランディング、メッセージングを自社で統合できる領域であり、他社が介在しない点が大きな強みです。
ShopifyパートナーであるFifth & Corのブランドパートナーシップスペシャリスト、レキシー・ベッカー氏は次のように説明しています。「売上を最大化し、ロイヤルティの高い顧客基盤を構築できるよう、自由にマーケティングアプローチを選択できます。顧客は棚に並ぶ他の商品と比較するのではなく、あなたの商品やそのメリットに集中します。」
より高い利益率
D2Cで展開するビジネスモデルは、より高い利益率を維持する機会をもたらします。自社で商品を製造・マーケティングすることで、サプライヤーや卸売業者に支払うのではなく、より多くの利益を自社に留めることができます。
AIターゲティングソリューションProximaの創設者であるアレックス・ソング氏は次のように述べています。「D2Cモデルの利点は主に、デジタルチャネルを通じてスケール可能で、高い測定性を備えたユニットエコノミクスにあります。これにより、ブランド認知を構築しながら大量の顧客を獲得できます。」
「また、従来の小売業で利益の大部分を占めていた卸売業者を排除できるため、粗利益率の向上にもつながります。デジタルチャネルの透明性によって資本の使途が明確になり、特に不況下において大きな価値を発揮します。」
データに基づいたマーケティング意思決定
D2Cマットレス小売業者Nolahの創設者であるスティーブン・ライト氏は、「最強のマーケティングキャンペーンにおいて、最も重要なのはデータです」と述べています。彼の見解では、D2Cマーケティングは小売業者との協業と比べて、ファーストパーティの顧客データにより広くアクセスできる点が強みです。
D2Cブランドは、次のようなデータにアクセスできます。
- ウェブ上での閲覧行動
- 購読者データ
- SNSデータ
- 購入情報
- クロスプラットフォームデータ
- アンケート結果
- 顧客からのフィードバック
- CRM情報
これらの情報を活用することで、カスタマージャーニーを一貫して把握し、売上につながる、よりパーソナライズされたマーケティングキャンペーンを構築できます。
D2Cマーケティングの課題
D2Cマーケティングには多くのメリットがありますが、同時にデメリットについても検討することが重要です。
- 新市場に参入する場合、D2Cには初期投資が必要です。見込み客向けのキャンペーンを実施し、企業の認知度を高めるには相応の資本が求められます。小売業者を通す場合のように、既存の顧客基盤を活用することはできません。
- D2Cブランドはより多くの責任リスクも負います。顧客を十分に獲得できない場合や、商品を効果的にプロモーションできない場合でも、責任を他に委ねることはできません。
消費者への直接販売はサプライチェーンを複雑にします。ビジネスを混乱させかねないリスク要因が複数存在します。少数のベンダーにまとめて出荷するのではなく、消費者の自宅へ数千件の注文を個別に配送する責任を負うことになります。
成功したD2Cブランドの事例
学習するうえで効果的な方法の一つは、事例から学ぶことです。ここでは、代表的なD2Cブランドをいくつか取り上げ、彼らがどのように顧客へマーケティングを行っているのかをご紹介します。
1. Magic Spoon
Magic Spoonは、明るく大胆なブランディングが特徴のヘルシーシリアルブランドです。Instagram、Facebook、TwitterなどのSNSプラットフォームで積極的に発信し、メールリストの構築やアフィリエイトプログラムの推進にも取り組んでいます。
消費者はシリアルのラインナップをオンラインで閲覧・注文でき、定期購入オプションも利用可能です。Magic Spoonのサブスクリプションモデルでは、単発購入よりも割引価格で毎月4箱のシリアルを受け取ることができます。この戦略により、顧客生涯価値の向上と、定期購入者からの安定した継続収益を実現しています。
同社のマーケティングでは、明るい背景に抽象的な商品写真を配置し、大胆なパターンを取り入れることで、ブランドアイデンティティを強く打ち出しています。Magic Spoonは2019年に設立され、2022年6月には8,500万ドル(約131億7,500万円)の資金調達を実施しました。
2. MeUndies
MeUndiesは、自らを「世界で最も快適な下着」と称するブランドです。このように親密性の高い商品では、ブランドにふさわしいトーンを見つけるのが難しいこともありますが、MeUndiesは親しみやすくユーモアのあるアプローチで成功を収めています。
同社のマーケティング戦略は多様なチャネルに展開されており、Twitter、Facebook、YouTube、Instagram、Pinterest、さらにはSnapchatにまでSNSプレゼンスを広げています。
また、メールリスト構築のための巧みな施策も実施しています。訪問者がサイトにアクセスしたタイミングで割引コードを提示するポップアップを表示する仕組みです。このオファーが新規顧客限定であることを明記することで、顧客基盤の拡大につなげています。
さらに、Magic Spoonと同様に、MeUndiesも独自のメンバーシッププログラムを提供しており、顧客は毎月、新しい下着やブラレット、靴下を1点受け取るサブスクリプションを利用できます。
同社は現在、年間推定3,100万ドル(約48億500万円)の売上を上げており、下着業界で最も成功しているブランドの一つとしての地位を確立しています。そして、そのすべてをD2Cブランドとして実現しています。
3. Chubbies
Chubbiesは、男性向けの「ショートパンツ」で知られるメンズウェアブランドです。股下約10cm、13cm、18cmのショートパンツを展開しています。2011年に、4人の大学時代の友人によって設立されました。当時、ショートパンツは古着店でしか見つけられないような存在で、そのスタイルは70年代の流行として忘れ去られていました。
しかしChubbiesは時代を先取りしていました。その後10年で、短い丈のスタイルが自然な形でファッションに復活したのです。同ブランドは、Facebook、Instagram、YouTube、Snapchat、TikTokなどのSNSプラットフォームで積極的に発信しています。
@chubbiesshorts We can fix you #chubbies ♬ original sound - rxnplify
こうしたSNSプレゼンスを通じて、Chubbiesは自らのニッチを明確に確立しています。週末の楽しいアウトドア活動を想定したウェアを提案し、一貫したメッセージングを維持することで、「長めのショートパンツにとらわれずに週末を楽しみたい男性」というターゲット層に響く強いブランドを築いています。
4. Away
高級旅行用品ブランドAwayは、D2Cマーケティングの優れた事例の一つです。同社はInstagram、Facebook、X、Pinterestなどのプラットフォームで存在感を高めており、各プラットフォーム(Xを除く)に用意されたeコマース向けのオンラインショップ機能も効果的に活用しています。
一方で、オンラインマーケティングの中でも特に際立っているのがXでの発信です。旅行やパッキングに関する共感を呼ぶコンテンツを投稿しています。
その結果、オーガニック投稿に対してフォロワーから安定したエンゲージメントを獲得しています。このようなコンテンツはTwitterとの相性が良く、シンプルなテキスト中心の投稿が効果を発揮しやすい数少ないプラットフォームの一つといえます。
また、Instagramでは商品写真と雰囲気のあるユーザー生成コンテンツをバランスよく組み合わせ、オーディエンスに支持される魅力的なコンテンツを提供しています。
5. Personal Fav
Personal Favは、植物由来成分やCBD配合の潤滑剤を販売するセクシュアルウェルネスブランドです。性に関わる業界のブランドとして、マーケティングにおいて多くの社会的偏見を乗り越える必要がありますが、身体とセクシュアリティの肯定や性教育の推進に積極的に取り組んでいます。
Personal Favは、すべてのデジタルマーケティングチャネルで一貫した、明るい色使いのブランドアイデンティティと、自信に満ちた率直なトーンを打ち出しています。また、性教育が十分に行き届いていない現状を踏まえ、自社商品を安全かつ最大限に活用するための情報発信にも力を入れています。
以下は、Instagramでの投稿例です。
そして、こちらはTikTokで共有された啓発動画の一例です。
@personalfavco what you missed in s3x ed!✨💦#fyp#foryou#foryoupage#smallbusiness#shopsmall#Wellness#Buffering#ADayInMyLife#SideHustle#Restock#BookWorm#TipsAndTricks ♬ Sunny Day - Ted Fresco
このような商品を扱うブランドとして、Personal Favは率直でオープンな姿勢を貫いており、性や快楽を取り巻く偏見にとらわれるべきではないことを示しています。もし偏見の根強い業界にいるのであれば、オーディエンスを啓発し、顧客に力を与える大胆なメッセージを発信することが成功につながります。
6. Pomp
スキンケアブランドPompは、パーソナライゼーションを巧みに実現しています。アンケートを通じてカスタマージャーニーを開始し、一人ひとりに合った商品を見つけられるようサポートしています。
企業全体がパーソナライズされたスキンケア提案を軸に展開しているため、マーケティングメッセージも顧客に向けたスキンケアの情報発信に重点を置いています。
以下は、PompのSNSチャネルで見られるコンテンツの例です
このパーソナライゼーションは大きなセールスポイントとなっており、それを中心に、顧客の心にすぐに響くマーケティング戦略を構築しています。
主要なD2Cマーケティング戦略
マーケティングチャネルにはそれぞれ特性があり、ブランドによって適したチャネルは異なります。たとえば、LinkedInはB2B企業に適しており、Pinterestはeコマースブランドとの相性が良いとされています。
D2Cブランドに効果的な主要なマーケティングチャネルは6つあります。それぞれの特徴を理解し、具体例からヒントを得ていきましょう。
SNSマーケティング
ニック投稿まで、このチャネルはブランド認知の向上からコンバージョン獲得まで、マーケティングファネル全体で機能します。
D2Cブランドにとって主要なSNSには、以下があります。
- TikTok
OpenStoreのデータサイエンス責任者であるアンドリュー・キャンベル氏は、次のように述べています。
「Facebook広告は、新しいD2Cブランドがアイデアをテストする最も簡単で迅速な方法です。このプラットフォームを活用すれば、科学的な実験を通じて、顧客に最も響くビジネス要素を見極めることができます。真の商品市場適合を見つけられれば、広告オークションでの競争や魅力的なランディングページの作成、さらにはTikTokのような新興チャネルへの展開も容易になります。」
ビタミンブランドRitualを例に挙げてみましょう。同社は、潜在的な新規顧客にブランドを紹介し、既存顧客に新商品の発売を知らせるFacebookやInstagram広告を多数展開しています。
一方で、公式Facebookページでは、クリエイティブなコンテンツや関連するミームを投稿し、オーディエンスとのエンゲージメントを高めています。
自社でブランドメッセージをコントロールできるからこそ、このようなSNSチャネルを独自かつ創造的な方法で活用できるのです。
メールマーケティング
D2Cブランドにとって、もう一つの重要なチャネルがメールです。ただし、やみくもにメールを大量配信すればよいという意味ではありません。そうでなければ、下のような反応を招く可能性があります。
Dear brands, learn when to shut up.
— Nik Sharma (@mrsharma) December 3, 2019
Sincerely,
Nik pic.twitter.com/0fD4jsdx4i
代わりに、メールマーケティングを活用して他のマーケティング施策の効果を高めましょう。たとえば、SNSでセールを告知し、メールであらためてリマインドしたり、インフルエンサーとのコラボキャンペーンに合わせてメールを配信したりする方法があります。
メールマーケティングは、見込み客の記憶に残るための有効な手段です。顧客は、SNSでブランドを知った直後やインフルエンサーの推薦を目にした直後には購入しないかもしれませんが、その後に別の広告やメールをきっかけに購入へと至る可能性があります。
以下は、ブティック家具ブランドEdloe Finchが椅子をプロモーションしたニュースメールの一例です。
魅力的な商品写真と効果的なメールコピーを活用することで、関心を持つ顧客に再びウェブサイトを訪れてもらい、新たな購入につなげることができます。
インフルエンサーマーケティング
インフルエンサーマーケティングは年々注目度が高まっており、その勢いは衰えていません。実際、Statistaによると、ブランドは2023年にインフルエンサーマーケティングへ340億ドル以上(約5兆2,700億円)を投じました。
インフルエンサーマーケティングとは、有名人や著名人と提携し、商品を紹介・推奨してもらう手法を指します。市場は急速に変化しており、ナノインフルエンサーやキッズインフルエンサー、さらにはCGI(コンピューター生成画像)インフルエンサーなど、さまざまなニッチやサブニッチが存在します。パンデミック下でのTikTokの台頭により、一般ユーザー発のインフルエンサーも増加しており、ブランド側もそれに合わせて戦略を柔軟に調整する必要があります。
インフルエンサーマーケティングは、D2Cブランドの成功において重要な役割を果たします。ブランド認知の向上、コンテンツの拡充、売上増加に貢献します。平均すると、ブランドはインフルエンサーマーケティングに投じた1ドルあたり約4.12ドル(約639円)のリターンを得ています。
以下はその一例です。Pretty in the Pinesとしても知られるインフルエンサーのシェルビー氏は、ブランドSonosとの有料パートナーシップの一環としてスポンサー付きリールを投稿し、Sonos製品の購入に利用できる割引コードを紹介しました。
パーソナライゼーション
消費者は、自分のニーズに高い関連性を持つ商品を提案してくれるブランドから購入する傾向があります。現在はさまざまな技術が利用できるため、パーソナライズは注力すべき重要な施策といえます。
商品ページで類似商品を表示する方法から、ウェブサイト上での購買行動データを蓄積した顧客プロフィールを作成する方法まで、顧客体験をパーソナライズする手段は多岐にわたります。
美容ブランドIPSYは、新規顧客に好みに基づいたクイズに回答してもらうことで、これに近い取り組みを行っています。最初の質問では肌のトーンを尋ね、発送されるファンデーションやコンシーラーが適切に合うようにしています
その後、これらの情報を各ユーザーのプロフィールに保存し、毎月発送される5点入りのサブスクリプションボックスの選定に活用しています。これにより、各購読者にパーソナライズされた商品が届く仕組みを実現しています。
コミュニティ構築
ブランドの周りにコミュニティを築くことは簡単ではありません。ブランドを支持し、愛してくれる熱心なファンによるオンラインコミュニティを作ることができれば、それは大きな成果といえるでしょう。しかし、挑戦する価値は十分にあります。
顧客向けのFacebookグループを立ち上げたり、アフィリエイトプログラムを展開したり、ブランド専用のフォーラムを開設したりと、コミュニティを構築する方法はさまざまです。
ベビースリングブランドWildBirdは、顧客が他の親と交流し、質問をしたり、助けやアドバイスを得たり、同じ子育ての道のりを歩む人々とつながったりできるFacebookコミュニティを運営しています。自社ブランドに関連するテーマで顧客同士が結びつくようなコミュニティの構築を検討してみましょう。
SMSマーケティング
近年急速に広がっているマーケティングチャネルの一つが、SMS(テキストメッセージ)マーケティングです。多くのブランドが顧客の携帯電話番号を取得し、短いプロモーションメッセージや新商品情報、セールや割引のリマインダーなどを配信しています。
石けんブランドMr. SquatchはSMSマーケティングを積極的に活用し、優れた成果を上げています。実際、年間2億ドル(約310億円)の収益のうち、15%がSMSキャンペーンから生まれていると報告しています。
口コミマーケティング
口コミをマーケティングチャネルとして活用することで、D2Cブランドは顧客に商品や体験について周囲へ共有してもらうことができます。
ロイヤルティの高い顧客に対しては、レビュー投稿やSNSでのシェアに報酬を提供する方法があります。また、優れたカスタマーサービスを通じて、家族や友人に思わず話したくなるようなポジティブなブランド体験を生み出すことも有効です。
D2Cマーケティング戦略のコツ
D2C企業が次々と登場するなか、競争はますます激しくなっています。市場で存在感を示すためには、以下のベストプラクティスを押さえることが重要です。
強力なブランドアイデンティティを作成する
優れたブランディングはブランド認知の向上につながり、企業の成功を左右する重要な要素となります。顧客がブランドを認識すれば、そのブランドに対するロイヤルティも高まりやすくなります。
そのため、まずは強固なブランドアイデンティティを構築することが不可欠です。一般的には、次の要素で構成されます。
- ロゴ
- カラー
- フォント
- トーンやメッセージ
- パッケージデザイン
見た目が魅力的で、ターゲットオーディエンスの共感を得られるブランドアイデンティティを確立することで、競合との差別化が可能になり、安定した顧客基盤の構築につながります。
マーケティングエージェンシーFifth & Corのブランドパートナーシップスペシャリスト、レキシー・ベッカー氏は次のように述べています。
「D2Cマーケティングにおいては、現在のブランドアイデンティティを評価し、改善のために何が必要かを判断できる強力なチームを編成することを推奨しています。」
Fifth & Corは、あるD2Cシューズブランドの支援も行いました。ベッカー氏によると、
「新たなInstagramのビジュアルブランド戦略を策定し、ターゲット消費者がどのようなコンテンツに反応するかを分析しました。その結果、ユーザー生成コンテンツ、ショッパブルソーシャルコマース、評判管理を組み合わせた施策を実施し、SNSエコシステム内で大きな成果を上げました。わずか90日でコンバージョンが220%増加しました。」
自社のブランドアイデンティティに注力することで、同様の成果を生み出す可能性があります。
バイヤーペルソナを構築する
ターゲット顧客は誰でしょうか。これは、D2Cマーケティング戦略を策定するうえで欠かせない問いです。誤ったオーディエンスに向けてメッセージを発信してしまえば、戦略は効果を発揮しません。
マットレスブランNolahのスティーブン・ライト氏は、次のように述べています。
「ターゲットオーディエンスを深く理解すること、つまり、そのニーズや欲求、行動などを把握することは、その後に行うほぼすべてのマーケティング判断に影響を与えます。これが欠けていると、戦略は曖昧で方向性のないものになりかねません。」
多くのブランドは、実際のターゲット像を十分に反映していない、表面的なバイヤーペルソナを作成しがちです。年齢や性別、収入といった基本的な人口統計情報も重要ですが、それだけでは不十分です。より深い理解が求められます。
メールリストを活用した顧客アンケートの実施や、市場調査会社との連携によって、精度の高いバイヤーペルソナを構築することを検討しましょう。これにより、ターゲットが利用しているマーケティングチャネルや購買行動、商品や業界に対する意識などを把握できます。
こうした情報を活用することで、どのチャネルでオンラインプレゼンスを強化すべきか、また、顧客の心に響き購買を促すメッセージの方向性を明確にできます。
マーケティングチャネルを多様化する
マーケティングチャネルを多様化することで、より幅広いオーディエンスにリーチできます。確かに、Facebookには月間20億人以上のアクティブユーザーがいますが、それだけに依存するのは得策とはいえません。
「マーケティングの7の法則」によれば、平均的な消費者は購入前にブランドメッセージに約7回触れる必要があるとされています。さまざまなタッチポイントでコンテンツや広告、その他のマーケティングメッセージを発信することで、この条件を満たしやすくなります。
また、1つのチャネルに依存すること(いわゆる「すべての卵を一つのかごに盛る」状態)は、大きなリスクを伴います。
OpenStoreのデータサイエンス責任者であるアンドリュー・キャンベル氏は、次のように述べています。
「OpenStoreのデータによると、小規模なShopifyマーチャントでは、Facebookのインプレッション単価が過去1年間で25%、過去2年間では100%上昇しています。この競争の激しい環境において、優れたブランドは顧客獲得戦略を多様化し、SMSやメール、SNSのダイレクトメッセージなどのリテンションチャネルを活用して顧客生涯価値を高めています。」
作成したバイヤーペルソナをもとに、ターゲットオーディエンスが頻繁に利用している主要なプラットフォームで、確実にプレゼンスを確立しているかを確認しましょう。
デジタル広告を活用する
SNSマーケティングが高い人気を集めている理由の一つは、オーガニックで拡散する可能性がある点です。ただし、オーガニックでフォロワーやリーチを伸ばすには時間がかかることもあります。
そこで重要になるのがデジタル広告です。D2C企業が成果を上げるには相応の資本が必要であり、その多くは、特にスタートアップ段階におけるデジタル広告キャンペーンに投じられます。
広告は、初めて潜在顧客にアプローチする場合でも、ウェブサイト訪問者をリターゲティングして再訪・購入を促す場合でも、ファネルのあらゆる段階で効果を発揮します。
MaxAdのロバート・エッピンガー氏は、広告効果を最大化するには幅広いオーディエンス設定が重要だと述べています。
「新たなプライバシーフレームワークの導入により、従来効果的だった多くのオーディエンスセグメントは、Facebook/Meta上で広告アカウントの学習を十分に進めるには規模が小さくなっています。また、あまり語られていませんが、Googleのマッチタイプ変更により、手動入札やネガティブキーワードで管理する部分一致キーワードが、現在では広告アカウントにおいて重要な要素となり、成果を上げています。」
自社に最適な施策を見つけるために、さまざまなオーディエンス設定や広告クリエイティブ、広告コピーをテストしていきましょう。
マーケティングコンテンツで創造性を発揮する
次のセクションで優れたD2Cマーケティングの事例を紹介しますが、創造性は欠かせない要素です。オンライン上や受信箱、スマートフォンには膨大なコンテンツがあふれているため、平凡なプロモーションは簡単に埋もれてしまいます。
エッピンガー氏は次のように述べています。
「クリエイティブなメッセージングやコピーは、これまで以上に重要になっています。幅広いオーディエンスに対して異なるフックやオファーを展開することが、効果的なターゲティングの基盤となり、アルゴリズムがコンバージョンの可能性が高い見込み客を見つけるための余地を広げます。」
優れたコンテンツを生み出す方法の一つは、まず多くのコンテンツに触れることです。競合他社の投稿をチェックし、どのようにすればさらに改善できるかを考えてみましょう。特に、自社とオーディエンスが重なるコンテンツクリエイターやインフルエンサーの発信は参考になります。
また、業界に関連しそうなトレンドやオンラインミーム、各種チャレンジにも目を向けてみてください。多様なオンラインコンテンツに触れ、オーディエンスの反応を観察することは、自社のマーケティングコンテンツを生み出すうえで大きなヒントになります。
D2Cマーケティングのトレンド
ソーシャルコマース
ソーシャルコマースは近年急成長しており、近年の米国における売上は670億ドル以上(約10兆3,850億円)に達しています。Instagram、TikTok、Pinterestなどのプラットフォームでは、ブランドが各SNS上で直接商品を販売しやすい環境が整っています。
出典:eMarketer
このトレンドの多くは、モバイルショッピングの拡大によって後押しされています。モバイルeコマースの売上は2.2兆ドル(約341兆円)に達し、世界のeコマース売上全体の60%を占めています。SNS上で商品を購入することへの抵抗感が薄れるにつれ、D2Cブランドもこの分野への投資を強化しています。
これまでソーシャルコマースプラットフォームで提供されている主なショッピング機能は、以下のとおりです。
Modern Retailの分析によると、調査対象となった4つのプラットフォーム(Facebook、Instagram、TikTok、Pinterest)のうち、ソーシャルコマース機能を活用しているブランド数が最も多かったのはInstagramで、最も少なかったのはTikTokでした。
動画コンテンツ
動画コンテンツは、D2Cマーケティングの中核を担う存在です。TikTok向けの魅力的な動画を制作する場合でも、動画広告を配信する場合でも、マーケターの大多数(88%)が動画マーケティングを戦略の重要な要素と位置づけています。新たに立ち上げられたD2Cスタートアップにとっても、TikTokは新規顧客を獲得する主要なチャネルとなっています。
消費者にとっても、動画は最も役立つコンテンツ形式とされています。効果的に制作された動画は、消費者が商品を実際に使用するイメージを持ちやすくし、売上の向上につながります。
では、D2Cブランドはどのような動画コンテンツを制作しているのでしょうか。代表的な例は以下のとおりです。
- 舞台裏コンテンツ:商品の製造過程や企業運営の様子を紹介する
- スタッフ紹介:スタッフのストーリーや背景を伝える
- 商品デモ:商品の使い方や機能を実演で見せる
- ユーザー生成コンテンツ:顧客が商品を使用している様子を紹介する
ShopifyパートナーであるFifth and Corのブランドパートナーシップスペシャリスト、レキシー・ベッカー氏は次のように述べています。
「SNSプラットフォームも消費者も、動画コンテンツをより重視する方向へと着実に移行しています。企業がTikTokにリソースを集中させたり、Instagramがアルゴリズムでリールを優先表示したりしているのはその表れです。動画コンテンツは消費者から高い支持を得ています。
動画では、実際に商品が使用されている様子を見ることができるため、コンテンツ全体の印象も強まります。実際、あるヘアケアブランドは、熱心な顧客による1本のTikTok投稿をきっかけに、15,000ドル(約232万5,000円)の売上を記録しました。」
D2Cマーケティングにおいて、動画コンテンツはブランドのソーシャルプルーフを強化し、信頼性を高めるうえで重要な役割を果たします。
ブランドパートナーシップ
D2C分野におけるもう一つのトレンドが、ブランドパートナーシップです。これは、直接競合しないものの、互いを補完し合う商品やサービスを持つブランド同士がコラボレーションする取り組みを指します。近年、多くのD2Cスタートアップが、FacebookやGoogle広告と比べて顧客獲得コストを抑えられる手法として、パートナーシップを積極的に取り入れています。
Nolahの創設者であるスティーブン・ライト氏は、次のように述べています。「ブランドパートナーシップは、各社の信頼性や可視性、そしてブランド価値を大きく高める可能性があります。」
狙いは、互いのオーディエンスを共有することで、より低コストで顧客を獲得することにあります。最近では、D2Cブランドが単発的な取り組みとしてではなく、マーケティング戦略の継続的な要素としてパートナーシップを組み込むケースが増えています。
「ブランドは、自社のブランドイメージや価値観と合致するパートナー候補にアプローチし、相手にとっても真に価値のある提案を行うべきです。ブランドパートナーシップは、双方にとってメリットのある関係、本物のつながりに基づいている場合に最も効果を発揮します。」
BNPL(あと払い)と柔軟な支払いオプションの採用
ショッピングカートの放棄は、eコマースブランドにとって一般的な課題です。放棄率は最大で70%にも達するとされており、D2Cブランドは収益性を高めるためにカート放棄を減らす施策を講じる必要があります。その一つが、BNPL(あと払い)の導入です。
BNPLサービスは2023年に急成長し、AffirmやPayPalなどを通じた取引額は、11月までに649億ドル以上(約10兆595億円)に達しました。
顧客がBNPLを好む理由は、購入金額の一部を支払うことで商品を受け取り、残りを分割で支払える点にあります。たとえば、Shop Payの分割払いでは、購入金額を一定期間にわたって分割払いにできます。さらに、Shop Payはゲストチェックアウトと比べてコンバージョン率を最大50%向上させ、他の高速チェックアウト手段と比較しても少なくとも10%高い成果を上げています。
オフライン体験を提供するD2Cブランド
デジタルネイティブブランドの中には、小売店舗やポップアップショップを展開し、認知度の向上や商品販売につなげる実店舗戦略を進めている企業もあります。
D2Cの代表的なブランドであるBrooklinenは、その好例です。2014年に設立されたリネンブランドは、顧客獲得戦略を見直し、トレンド性の高いエリアでの実店舗展開に注力しています。2022年夏には、ポートランド、サンタモニカ、フィラデルフィアに3店舗の高級ホーム用品店をオープンしました。その後も、シカゴ、ワシントンD.C.、サンディエゴ、サンフランシスコなどの都市へと出店を拡大しています。
Brooklinenのリテール担当バイスプレジデントであるジョシュ・イリグ氏は、Modern Retailの取材に対し次のように述べています。「実店舗を開設するたびに、その市場での売上が伸びるだけでなく、eコマース売上の向上も確認できます。」
店舗では、拡大を続けるホーム用品ラインを実際に手に取って体験できる場を提供しており、ブランドとのインタラクティブな接点を生み出しています。
今日からD2Cブランドのマーケティングを始めましょう
インフルエンサーマーケティングからSMSまで、D2Cブランドの認知拡大や売上向上につながる施策は数多くあります。オムニチャネルでの展開や事前のリソース投資といった課題はあるものの、重要なのはファーストパーティデータを活用し、顧客一人ひとりに合わせた体験を提供することです。
顧客の不安や疑問を解消し、強固な関係を築きながら、最新のトレンドを取り入れていきましょう。そうすることで、売上の増加や利益率の向上、顧客維持率の改善といった成果が期待できます。
D2Cマーケティングに関するよくある質問
D2Cグロースマーケティングとは何ですか?
D2Cグロースマーケティングとは、収益の拡大と顧客基盤の拡大を目的とした戦略や施策を指します。デジタルチャネルやデータ分析を活用して消費者と直接つながり、SNSキャンペーンやパーソナライズ施策、データに基づいた広告運用などを組み合わせて成長を促進します。
D2Cマーケットプレイスとは何ですか?
D2Cマーケットプレイスとは、D2Cブランドが仲介業者を介さずに、消費者へ直接商品を販売できるプラットフォームのことです。
B2CとD2Cは同じですか?
B2C(ビジネス・トゥ・コンシューマー)は、企業が消費者に商品を販売する形態全般を指し、小売店などの仲介者を通じた販売も含まれます。一方、D2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)は、第三者を介さずに企業が消費者へ直接商品やサービスを販売する形態を指します。
D2Cアプローチとは何ですか?
D2Cアプローチとは、卸売業者や実店舗を介さずに消費者へ直接販売するビジネスモデルです。eコマースやダイレクトマーケティングを軸とした強力なオンラインプレゼンスを構築することで、ブランド体験や顧客ロイヤルティを自社でコントロールできる点が特徴です。





