ナイキのシンボルとなっている「Swoosh(スウッシュ)」と呼ばれるロゴは、アパレル業界で史上もっとも成功したブランディングの一つです。「Just Do It(ただやるのみ)」というブランドメッセージとともに、諦めずに挑戦する気持ちを思い起こさせ、チームワークやスポーツマンシップの象徴となっています。
消費者にとってファッションは、自分自身の個性を表現するためのものです。アパレルブランドの役割はその代弁者となることで、優れたメッセージは消費者の感情に寄り添い、親友のように理解や共感を感じさせるものとなります。
また、ロゴやキャッチコピーだけではなく、製品そのもの、さらにパッケージや顧客のもとへ届ける手段といったフルフィルメントに至るまで、あらゆる顧客体験の積み重ねがブランド構築へとつながっていきます。
この記事では、その参考となるようなアパレルのブランディング成功例をご紹介します。
アパレルのブランディングとは?
ブランディングには、消費者の認識のなかに明確なイメージを確立するためのあらゆる要素が含まれます。企業の理念や価値提案(バリュープロポジション)、ブランドボイスやブランドストーリーに加えて、ブランドカラー、ロゴ、写真などを規定するビジュアルスタイルガイドも、その構成要素です。
アパレル業界では、ブランディングが商品そのもの以上に競争力を左右する場合があります。たとえば、ブランド力のあるTシャツの場合、生地やデザインよりもロゴが価値をもたらすことが多いのです。
また、アパレルブランドの立ち上げ段階から確固としたブランディング戦略に則って進めることが、市場での認知向上と差別化に効果を発揮します。特にスモールビジネスの成長においては、製品、店舗、ウェブサイト、SNS、顧客体験のすべてに一貫性を持たせるために、明確なブランドガイドラインを用意しておくことが重要となります。
エキスパート12人から学ぶ効果的なアパレルブランディングの例
- ブランドを3語以内で表現する
- 一体感のあるチームを築く
- ストーリーを与える
- 無料ツールを活用する
- 顧客のための体験を創造する
- 時間をかける
- インフルエンサーの力を活用する
- 競合とターゲット市場を理解する
- USP(ユニークセリングポジション)を作る
- プロと協力する
- すべての人に何でも売ろうとしない
- 一貫性を保つ
1. ブランドを3語以内で表現する
エキスパート:ジョーイ・ニックス(SaaS、eコマース向けのコンサルティングを得意とするマーケティング企業The Jays Groupの共同創設者およびCMO)
ジョーイのアドバイス:「アパレルのブランディングは、TPOに合わせて個性を表現したいという顧客のニーズに応えるための鍵となります。ブランドの価値観や美学を伝えられなければ、人々を惹きつけることはできないでしょう。
新たなブランドに携わるとき、私は必ずそのブランドを3語以内でどのように表現できるかを考えます。まずはブランドの世界観を表す言葉を洗い出してから、お気に入りの3つまでに絞り込みます。あるレコード会社の物販部門を手がけたとき、この手法を使い「Y2K B.E.T」(2000年頃のブラックカルチャー)の2語に決定しました。このたった2つの言葉が、ブランドがもたらすすべてのビジュアル、音、質感、感情を的確にとらえていたのです。
ブランドのニッチな特徴を見つけて、それを簡潔な言葉で定義してブランドを差別化してください。決めた言葉と合わないものは、たとえそれを気に入っていても捨て去るべきです。中核となるメッセージを定めたら、それをしっかりと伝え、広めていきます」
2. 一体感のあるチームを築く
エキスパート:アンドリュー・コインブラ(Massimo Duttiの婦人服デザイナー)
アンドリューのアドバイス:「一からブランドを立ち上げるときに大切なのは、自身のブランドを詳しく分析することです。ターゲット顧客は誰か、最終的な目標はどこか、5年後にどうなっていたいかといった問いかけが、ビジネスの方向性を定めます。
こうした分析は、ブランドの成長を手助けしてくれる人々を見つけることにもつながります。とても幸運なことに、私には判断力に優れ、貴重な意見をくれる友人たちがいました。有益なスキルを持つ友人やチームと、共に学び、成長していくことが大切です。
『セリーヌ”は、息の長い老舗ブランドです。シーズンごとに特徴的なコレクションを発表しながらも、定番アイテムも維持し続ける、絶妙なバランスを保っています。さらに大事なことは、ブランドの価値観が自然に反映されていると感じられる方向性でブランディングを続けてきたことです」
3. ストーリーを与える
エキスパート:リアン・マイ・リー・ヒルガート(サステナブルファッションのエキスパート、ビーガン衣料ブランドVaute Coutureの創設者※2020年に活動終了)
リアンのアドバイス:「ファッションとは、自分自身の内面を外に向けて表現するものです。だからこそ、内なる声を世界に向かって叫ぶブランディングこそが、ファッションのすべてです。内面で共感している人々は、きっとファッションや外面でも同じように表現するものなのです。
自分の声を誰かに代わってもらうことはできません。それは、あなたの心であり、魂であり、ストーリーでもあります。運営するブランドについて、『自分たちにはあって大企業にはないものは何か』と自問してみましょう。そこが、ブランドの強みとなるところです。私たちは、ブルックリンを拠点とする女性だけの活動家チームで、限られたリソースでベストを尽くしていました。これは大企業には出せない特徴でした」
4. 無料ツールを活用する
エキスパート:クリス・ゴ(The Leverage Showroomのオーナー、Embellish NYC、Haus of JR、Crysp Denim、Lifted Anchorsの共同制作者)
クリスのアドバイス:「ソーシャルメディアは、ブランディングに大きな役割を果たします。そしてブランド構築のためのもっとも安価な手段でもあり、幅広い層の人々にほぼ無料で情報を届けられます。ガレージで立ち上げたTシャツビジネスでも、個人のInstagram(インスタグラム)アカウントを使ってフォロワーを増やすことができます。
ファストファッション市場では、消費者はその時々の流行に注目しています。多くのブランドがトレンドに乗り、似たようなスタイルでいち早く市場に参入しようとしています。しかし、重要なのは一番早く作ることではなく、他社より良いものを作ることです」
5. 顧客のための体験を創造する
エキスパート:アレックス・オバイン(WeMakeWebsitesの元ディレクター)
アレックスのアドバイス:「ファッションビジネスを立ち上げることは、ブランドを創造することです。確かに商品は大切ですが、ブランドはさらに大切です。考えてみてください。ナイキのスニーカーは、他のスニーカーよりも優れているから選ばれるのでしょうか?いいえ、ナイキを選ぶのは、非常に魅力的なブランドだからです。人々は、自分を表現するために、ナイキのスニーカーを買うのです。
P&Coは、ブランドの作り方を学ぶうえでとても良い事例となります。同社のInstagramを見てください。バイク、ワイルドなヒゲ、コーヒー、そしてタトゥー。彼らのTシャツを着るだけで、この世界観にひたれます。
アパレルブランディングは消費者の感情に訴えかける必要があります。卓越したブランディングは、安心して受け入れられる雰囲気とともに、シーズンが変わればまた購入したくなるような刺激も提供します。ブランド構築は、次のようなポイントから分析してみるとよいでしょう。
- 評判はどうあって欲しいか
- 核心的な価値は何か
- ビジュアル的にどう見られたいか
答えが出たら、それを実行に移しましょう」
6. 時間をかける
エキスパート:オデッサ・パロマ・パーカー(ファッションライターおよびアートエディター)
オデッサのアドバイス:「ブランディングが重要な理由は、商品に込めた物語を語ってくれるからです。ブランディングにより、あなたの価値観や視点を伝えることができ、商品の細かい特徴も大もとのコンセプトにつながっていることを示してくれます。
そしてブランディングには、十分に時間をかけましょう。クリエーターや起業家は、現代社会のペースに巻き込まれて、つい焦ってしまいがちです。しかし、存在価値のあるビジネスやブランドを構築したいなら、一朝一夕にはできないことを知るべきです。そして、時間をかけても世の中は待ってくれます。なぜなら、それだけの価値があるからです」
7. インフルエンサーの力を活用する
エキスパート:マデリン・チュン(Represent Asian Projectの創設者兼編集長、The Huffington Post、Fashion、Chatelaine、Flare、およびYahoo! Styleの元ファッションジャーナリスト)
マデリンのアドバイス:「ソーシャルメディアをよく理解しているブランドの好例は、カルバンクラインです。旬のモデル、セレブ、インフルエンサーを起用し、シンプルながら斬新な方法でブランドを宣伝しています。こうして市場に新たな需要を生みだすことで、大きな話題になったりマスコミに取り上げられたり、広告費をかけずに拡散されるようになります。最新のキャンペーンでは多様性に満ちたキャストが登場しており、ますます多くの人々が自信をもってカルバンクラインを着こなせると感じるようになっています」
8. 競合とターゲット市場を理解する
エキスパート:ニック・イーデ(EastofEden LondonのCEO)
ニックのアドバイス:「アパレル業界においては、他のブランドと差別化できる個性と強力なトーンオブボイスを確立することがすべてです。新興ブランドへのアドバイスは、市場調査を行い、競合を分析することです。アパレル業界はもっとも競争の激しいマーケットの一つです。
ブランドにとって、ターゲット市場と顧客に届けたいものを理解し、ファッション好きの行きつけの場所になる方法を知ることも大切です。ソーシャルメディアで強い存在感を出すことは必須です。これは、ターゲット顧客とコミュニケーションするための、非常にコストパフォーマンスの良い方法です」
9. USP(ユニークセリングポジション)を作る
エキスパート:サラ・クーナー(Platform Media + Managementの社長)
サラのアドバイス:「2種類の黒のトートバックのどちらを買うか考えるとき、多くの人は名前を知っているブランドの方を選ぶでしょう。とても単純な話です。ブランド名とその特徴を広めることは、必要不可欠な販売戦略です。そして、販売はビジネス継続のために不可欠です。
とはいえ、アパレルラインをPRするために高額な印刷広告やテレビ広告は必要ありません。インフルエンサーマーケティングを活用してSNSコミュニティを築けば、ビジネスの拡大に大きな効果を発揮します。もちろん、高いPR会社を使ったり、スタイリストと仲良くなって大物セレブに服を着てもらうことにもメリットはあるでしょう。しかし、ソーシャルメディアの影響力も驚くべきものがあります」
10. プロと協力する
エキスパート:ヘレン・ライス(FUZZCO、Serious Buildings、およびPretend Storeのクリエイティブディレクター兼共同創設者)
ヘレンのアドバイス:「ファッションは常に変化しています。そのため、変化する環境の中でも自社に最適なニッチ市場を維持し続ける努力が、ブランドにとって重要です。ファッションは流動的なものだからこそ、自社のブランドとマーケットの両方を理解しておく必要があります。顧客が憧れるようなライフスタイルを体現する力は、素材やデザイン、製造工程、カスタマーサービス、文化的なつながりなど、ブランドのあらゆる意思決定のなかで培われていきます。これらの要素が、ブランドと顧客の関係性を形作ります。
アパレルブランドは、立ち上げ初期からブランディングコンサルタントに相談することも考えておくべきでしょう。これにより、ショッピング体験、販売方法、ブランドポジショニング、トーンを始め、ロゴなどのグラフィックと商品の視覚的なバランスに至るまで、最良の戦略を練ることができます。コンサルタントは、変化するアパレル業界で生き残れるように、ブランドを導いてくれるはずです」
11. すべての人に何でも売ろうとしない
エキスパート:キャロリン・デラコート(Boxwood Coの創設者)
キャロリンのアドバイス:「アパレル業界は、“憧れ”を推進力として発展してきました。シャネルからアンソロポロジーに至るまで、多くのブランドでは、ロゴを見ただけで帰属意識を搔き立てられるほどの、信者のような熱心なフォロワーを育ててきました。近年、コレクションで注目されるのはドレーピングや縫製技術ではなく、カルチャーとなっています。
過去20年間で、アパレル市場に参入する企業の数は劇的に増加しました。その結果、類似ブランドとの差別化は、以前にもまして難しくなっています。バイヤーは、速やかに売れるブランドを店に置きたがります。そして、ターゲット顧客層からの認知を集めることが、確実に在庫を減らすための最短ルートです。
すべての人に何でも売ろうとするのは、よほど拡張性のあるブランドでなければ、大きな失敗につながります。ターゲットとなる層の理解を深め、彼らが好みそうなポップカルチャーを利用しましょう。これにはかなりの市場調査とマーケティング経験を必要とするので、一朝一夕には実現できません」
12. 一貫性を保つ
エキスパート:ゲイル・マッキネス(ChangeMakersのレピュテーション・マネージャー)
ゲイルのアドバイス:「ブランドが説得力のあるメッセージを発信することで、顧客は服やアクセサリーに愛着を感じられるようになります。消費者がブランドに共感すると、そこに絆が生まれます。そして、身につけているブランドがまるで自分の分身のように感じるのです。
ブランディングは、商品の見た目から、SNSコンテンツ、顧客がブランドに出会ってから購入に至るまでのすべてを通じて作り上げられていきます。しかも、それらは一貫性を保っている必要があります。もし特別感のある高級ブランドを運営するなら、使用するメッセージやイメージにも高級感が必要です。一方で環境保護などに配慮したエシカルなブランドなら、販促資料は淡い色使いにして、口調もソフトにするとよいでしょう」
まとめ
アパレル起業に取り組む場合、自分のブランドは何者で、何を表現するかを理解することが、美しい服をデザインするのと同じくらい重要になります。今回ご紹介した、経験豊富なファッション業界の専門家からのアドバイスは、ブランド戦略を立てていくためのヒントになるはずです。
独自のブランドを立ち上げる場合でも、すでに成功しているほかのブランドにも目を向けてください。数多くあるアパレルECサイトの成功事例も、参考になるでしょう。アパレル業界で成功するには、創造的でオリジナリティがあり、移り変わるトレンドに迅速に対応できるブランディングが重要となります。Shopify(ショッピファイ)などのECプラットフォームを活用して手間やお金をかけずにアパレルネットショップを立ち上げれば、その分ブランディングに注力する余裕も生まれます。
特集画像はCottonbro Studio/Pexelsによるものです
アパレルブランディングのよくある質問
アパレルブランディングとは?
アパレルブランディングとは、潜在顧客に向けて自社のブランドを表現し、イメージを定着させていくプロセスを指します。商品名、ブランドカラー、ロゴ、ウェブサイトのデザイン、ブログのコンテンツといったあらゆる要素を通じて、一貫性のあるブランドイメージを発信することが重要です。
アパレルブランドを差別化するには?
オンラインコミュニティをリサーチし、価値観やスタイルに共感してくれるターゲット層を特定します。そのコミュニティのメンバーがどのように個性を表現しているかに注目し、彼らの感性に響くブランドアイデンティティを、プラットフォームをまたいでも一貫した形で作り上げていきます。
アパレルブランドのコンテンツを作成する際のポイントは?
アパレルブランドのコンテンツを作成する際には、コンテンツのトレンドを把握し、最新のプラットフォームを利用して発信することが重要です。コンテンツ作成のヒントになるアイデアも、いくつかご紹介します。
- ブランドの商品を使ったコーディネート例
- 製造工程の舞台裏を公開する動画コンテンツ
- ターゲット層がフォローしているインフルエンサーとの提携
- 最近買ったものの写真や動画をシェアしてもらうキャンペーン
アパレルビジネスで成功するには?
アパレルブランドで成功するには、服そのものと同じくらい、マーケティングやブランディング戦略に力を入れましょう。ファッション市場でブランドを効果的にポジショニングするには、ターゲット顧客を理解し、彼らに響く言葉で訴えかけるブランディングが欠かせません。発信するプラットフォームと伝えるメッセージが適切であれば、あなたのファッションブランドはターゲット層の消費者にアピールできるでしょう。
文:Norio Aoki





